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北京駐在スタッフの随想

No.038 「国際郵便と新型コロナ対策」

2022年1月26日
特任教授 林 光江

1月17日北京大学から、国際郵便物の取り扱いについて通知を受けた。過去14日間以内に国際郵便物を受け取った者は、所定の用紙に記入の上、48時間以内にPCR検査を受けるようにとの内容だった。あわせて「海外からの商品をなるべく注文しない」「受け取りの際にはマスクと使い捨て手袋をつけ、配送業者との接触を極力なくす」「開梱はなるべく戸外で行い、外側の箱や包みは持ち帰らない。持ち帰る場合は、開梱前に包装を塩素系消毒剤または75%アルコールで消毒する」など細かな注意も添えられていた。

これは1月15日に北京で初めてオミクロン株の市中感染が確認されたためだ。ゼロ・コロナ政策をとる中国においては、「本土病例」と言われる国内感染症例の原因特定が非常に重要となる。地方政府は感染者の詳細な行動履歴を公表し、同時刻、その場所にいた者は、実際の接触有無にかかわらず「接触者」や「二次接触者」として検査や隔離の対象となる。遊園地や商業施設にいる時に「この中で感染者が出たからPCR検査を行う」と突然告げられ、全員の検査が終わるまで園や建物の外に出られない、ということも起きていると聞く。疑わしい感染源を徹底的に封じ込めるのだ。

これまでも中国国内で散発的に流行が見られたが、その多くは海外からの入国者・帰国者が感染源であり、市中感染はそれらとの接触から起きたことが確認されていた。感染源が特定できていたのである。しかし、今回北京のオミクロン株市中感染では明らかな感染源が特定できなかった。1月15日に確認された最初の症例は入国者や帰国者との接触が皆無であった。一方、11日までに大量の国際郵便物を受け取っていたことが分かったため、その国際郵便物の表面や内部の環境サンプルを検査したところ、カナダや北米で見られる変異株と同様の遺伝子配列が確認されたという。これらの状況を受けて、17日に北京CDCの責任者・龐星火医師は「国外からの物品が感染源である可能性を排除できない」と発表した。そうして冒頭に述べたような通知・措置に至ったわけである。もちろん感染者が触れたために郵便物が「汚染」された可能性も考えられるので、あくまでも「可能性を排除できない」という表現になっているのだと思われる。

また北京ではデルタ株の市中感染も同時に起きており、感染連鎖の元になった症例は北京・豊台区にある冷凍倉庫で働いていたとされる。その家族や同僚にも感染が確認され、さらに山東省と山西省へも感染連鎖が広がった。山西省大同市の感染者は当該倉庫の同僚で、1月20日に北京を離れ帰省していた。山東省済南市の感染者は長距離トラックの運転手2名で、当該倉庫で感染者と接触があった。山東省聊城市の感染者は北京から帰省した労働者で、上記とは別の冷凍倉庫で働いていた。

このような「コールドチェーン物流」を介した感染は2020年6月から11月にかけて北京市、山東省、遼寧省で起きた地域的感染流行の際にも指摘されている。2020年初めの世界的感染拡大当初、各国でも懸念された「物から人へ」の感染は、今や多くの国では無視できる範囲と考え、物流を通しての感染拡大について懐疑的な見方が主流であるが、中国では一貫して注視されている。今回北京での感染に関わる倉庫が置かれている豊台区では、200万人以上の全住民にPCR検査が実施されている。これも人的資源の豊富な中国だからこそできる措置である。

2月1日には中国最大の祝日である「春節」を迎えるため、帰省ラッシュがすでに始まっている。また2月4日には北京冬季オリンピック開幕が控えている。今のところ新型コロナ対応の「正解」は誰にもわからない。しかしゼロ・コロナ政策下においては、抑え込むべき感染源が特定できない以上、たとえ根拠が薄弱であっても国際郵便すら感染源の可能性として徹底的に抑え込んでいくことが、現時点で中国が選んだ「正解」なのであろう。