中国感染症情報中国感染症情報

北京駐在スタッフの随想

No.041 「PCR検査の新たな姿」

2022年7月27日
特任教授 林 光江

7月に入り、日本では全国的に新型コロナウイルス感染者が増え続けている。その結果、PCR検査や抗原検査用キットが不足し、また、医療体制の崩壊を危惧する声も聞かれる。

中国では今、PCR検査の自動化装置開発が進んでいる。6月1日に上海のロックダウンが解除された後もゼロ・コロナ政策は続いており、中国各地では数日ごとにPCR検査を受けないと公共交通手段を利用できなかったり、買い物にも行けなかったりと、検査が「常態化」している。暑い夏を迎え、検査に携わる人への負荷が増大する中、検査工程にロボットを導入することにより、人為的要因による検査不備を減らすと同時に、検査スタッフの感染リスクも低減することができる。

上海にほど近い江蘇省のある会社で「半自動化」されたPCR検査ユニットが開発された。身分証明書を読み取らせ、指定の場所にあごを固定してボタンを押せば、ロボットアームが検査用綿棒を差し出し、口腔内サンプルを採取する、というものだ。「半自動化」というのは、検査前にスタッフがそばに付いて身分証明書を登録し、検体チューブにバーコードを貼り、綿棒をロボットアームにセットする必要があるからだ。その後、足踏み式ペダルで指令を出すと、ロボットによってサンプルの採取から密閉保存までが完了する。現在このユニットは自社社員の検査用に2台、他社の社員用として1台が稼働中だという。

このようなPCR検査ユニットはその他多くの研究機関や会社でも開発が進められている。上海機器人産業技術研究院(中国語の「機器人」はロボットを指す)などのチームは、ほぼ全自動のサンプル採取システムを開発した。検査を受けるには検査コードをシステムに読み取らせ、提供される使い捨てマウスピースをくわえるだけで、ロボットがサンプル採取を行い、検体保存までを完了する。消耗品を一度補充すれば12時間連続で検査を行うことが出来るという。一辺が約2メートルの立方体で、移動用のキャスターも備えている。検査の都度、システムが隔離シートを交換し、感応式の紫外線消毒を行うので交差感染のリスクを抑えることができ、ユニット内も減圧になっており、安全性が担保される。

もちろんこのようなシステムにも問題はある。各社がこぞって開発を進めているため、ユニットの細かな仕様が異なり、検査を受ける人はその都度使い方に慣れる必要があるかもしれない。またロボットによる力加減がうまくいかず、使い方や設置の仕方によっては口腔内を傷つける恐れも否定できない。

江蘇省の無錫市疾病対策センター(無錫市CDC)はサンプル採取ユニットの基本的な標準規格策定を始めた。これが全国的に広まり、統一の基準ができれば、開発元が違っても利用者が安心して検査を受けることができるようになるだろう。

中国は公称14億の人口を抱える。新型コロナウイルス感染症対策において、今後もゼロ・コロナ政策をとり続けるとすれば、人口稀少で症例のない地域を除き、約10億人が頻回なPCR検査の対象となる。この人口の多さが、将来的な利益につながるとして、企業の開発を後押ししている側面もある。

中国では自国産のワクチンを不安視する人が少なくないと聞く。また中国はワクチンや医薬品の開発面において欧米の後塵を拝しているとも言われる。しかしそれでも、医薬における研究成果が次々と実用化につながり、検査サンプル採取自動化のような新しい技術開発が生まれていることは客観的に評価すべきだと思う。