中国では昨年12月初旬にゼロ・コロナ政策が終了し、新型コロナウイルスに感染する人が一気に増加したが、わずか3か月ほどですっかり影をひそめてしまったかのようだ。
3月18日中国疾病予防コントロールセンターの発表によれば、PCR検査による新型コロナ陽性者確認は12月22日の694万人をピークに下降し、3月16日には4,917人となった。PCR検査陽性率は12月25日の29.2%がピークで、3月16日には0.8%まで下がっている。また、抗原検査による陽性者確認は同じく12月22日の33.7万人がピークで、陽性率が21.3%、3月16日の陽性者は194人、検査陽性率は0.4%となった。ゼロ・コロナ政策解除後、街頭のPCR検査所がほとんど閉鎖されて無くなり、流行拡大時は抗原検査キットも品薄で手に入らなかったと言う人も多いから、陽性者の数自体は参考にしかならないが、陽性率の推移を示したグラフを見ると、1月下旬には感染拡大は落ち着いていたようだ。
歩調を合わせるように1月20日、中国政府は2月6日から中国本土と香港・マカオとの間の往来を完全自由化すると発表した。また中国から20か国への観光ツアーも同じく2月6日から再開させた。対象国は、タイ、インドネシア、カンボジア、モルジブ、スリランカ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ラオス、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、南アフリカ、ロシア、スイス、ハンガリー、ニュージーランド、フィジー、キューバ、アルゼンチンである。
中国旅游研究院によれば、コロナ前である2019年の出入国者数はのべ約3億人、うち海外および香港・マカオ・台湾から中国への入国者は1.45億人、中国から海外への出国は1.55億人だった。その後3年間の厳しい出入国制限のため、この数は大きく落ち込んだが、今年は2019年の3割程度までの回復を見込んでいるという。4月下旬からは労働節(メーデー)の連休があり、その先には夏休みや10月の国慶節(建国記念日)連休も控えている。コロナ禍で不自由な生活を強いられてきた人々にとって、海外への訪問が再開されるというのは喜ばしいことに違いない。
しかし、同時に海外からの感染症輸入症例も「再開」することを忘れてはならない。特に今回団体旅行を解禁した国々には東南アジアやアフリカなど亜熱帯・熱帯地域が多く、現地で流行している感染症の流入が懸念される。早くも2月10には浙江省紹興市でデング熱の輸入症例が確認された。患者は春節休暇を利用してタイを訪れた旅行者だという。タイだけでなく、シンガポール、マレーシア、フィリピンなどでもすでにデング熱の流行が始まっている。
中国国内では南方に位置する広東省、海南省、福建省、江西省、雲南省などでデング熱の国内症例が多く認められる。デング熱の感染が流行した2014年には、全国の発症例46,864件のうち80%が広東省広州市から報告されている。これらの省では毎年、感染症を媒介する蚊の撲滅対策を市民に呼びかけ、一定の効果をあげているが、北方に位置する北京などでは地域内での感染確認が少ないため、日頃からの対策を目にすることは少ない。しかし温暖化の影響で、蚊の生息域も北上している。それに加えて海外旅行の解禁。蚊が媒介する感染症はほかにもマラリア、ジカ熱、日本脳炎、ウエストナイル熱、黄熱、チクングニア熱などが知られている。また、昨年5月以降世界的に広がったサル痘など、性的接触による感染症にも留意すべきである。
この3年間、人々は海外旅行から遠ざかっていたため、輸入感染症の記憶も薄れている。いま一度、感染予防の呼びかけが重要になるだろう。